店長の開業秘話
お花の値段に驚いた!
私が誕生日のプレゼントに花束を買おうとした時のことです。
そのころはまだ、花屋に入る男性は今ほど多くない時代、
私はその場所にあまり似つかわしくなかったかもしれません。
えっ!、お花ってどうしてこんなに高いの?
あれは私がお店を始める2年ほど前の夏、
今年のようにとっても蒸し暑い夜のことでした。
私はひとりの女性の誕生日に渡す花束を買おうと、
職場からほど近い花屋に立ち寄りました。
私は店内に入ると、お店の若い女性店員に言いました。
「5000円の予算で、誕生日用の花束を作ってください。」
その女性店員は、「わかりました。」と一言返事をすると、
お花のいっぱい入ったショーケースから、
バラやカスミソウ、他にも初めて見るようなお花を組み合わせて
テキパキと花束を作ります。
それから待つこと5分、私の注文した花束が出来上がりました。
5000円といえば、そのころの安月給の私にとっては結構な金額、
なのに、出来上がった花束は、私がイメージしていた、
両手で抱えるような花束とはほど遠いものでした。
「お花が高すぎる!!」
思わず口から出そうになったその言葉を、
私はゴクンと胸の中に飲み込みました。
それにしても、お花がこんなに高いものだとは、
その日まで知りませんでした。
これでは、よほどの時でないと、
お花を買ってプレゼントするなんてことは、私にはできません。
この花束が、その2倍くらいのボリュームであれば、
"お花が高すぎる!!"なんて気持ちになることはありませんでした。
振り返ってみると、他のお店に行けば、
もっと素敵な花束が作れたかもしれません。
何も知らず、何も考えないままに入ったこのお店だけが、
特別高かったのかもしれません。
仲のよい友人や、職場にいるお花好きな女性に、
どこのお店がいいか、聞いておけばよかったかもしれません。
"誰もが、いいものを気軽に買えるお花屋さんはないのか?"
こんなふうに考える私が、そこにいました。
幸い私の実家は、お花を栽培する園芸農家で、ずっとお花と親しんできました。
仕事も、農林水産省というお役所で、園芸を振興する部所でした。
貯金も、少しですが貯まっていました。
"自分が花屋を始めることに、何の障害もないじゃないか。"
そう思った私は、自分で理想の花屋を始める決心をしました。
"考えていても始まらない、とにかく自分の店を持とう。"
とりあえず花屋を始めるのにしておかなければならないと思うことが、
2つありました。
ひとつは、花屋を営業するに必要な、最低限の技術も身につけること。
ふたつには、手持ちの資金で開店できる店舗を探すこと。
とは言うものの、私には生け花の経験もなければ、
名古屋の花業界にツテもコネもありません。
手始めに電話帳をめくって、職場の近くにフラワースクールを見つけ、
さっそく入校の手続きをしました。
毎週2日2時間づつの、仕事帰りのスクール通いが始まって1年が過ぎた頃、
教室の掲示板に貼られた1枚のチラシが目に飛び込んできました。
"生花店、居抜きの経営者求む!!"
まさに、私が待ち望んでいたチャンスが、目の前にやってきたのです。
私はチラシの主に、その日のうちに連絡を取り、
2日後には現地に出向いて、詳しい話を聞きました。
マンションの1階にあるその店舗は新しく、設備も十分、
周りの環境も申し分ありませんでした。
もちろん即決です。初めて店舗を見た日からわずか2ヵ月後、
1993年9月に、私はこの花屋の経営を始めることにしたのです。
しかし、店舗経営の本当の厳しさを思い知るのは、それからすぐのことでした。
ぜんぜんお客様が来ないのです。
"1日客数20人、売上げ5万円?"
前の経営者から聞いていた数字は、現実からかけ離れたものでした。
最初の1週間、職場の同僚がお祝いに来てくれたものの、
近所の客はほとんど来ず、1日1万円の売上げもありません。
しばらくすると一人のお客も来ない日もありました。
アルバイトの給料にも足りません。
もちろん家賃など払えるはずもありません。
きれいなカラーチラシを作って、夜ごとポストに入れて回りましたが、
まったく反応がありません。
咲きすぎてしまった花を吊るして、ドライフラワーにはしてみたものの、
どんどん溜まるばかりで、ほとんど売れません。
貯金が毎月10万円、20万円と減り、このままでは半年が限界。
夜、布団に入っても眠れない日が続きました。
こんな日が続いても、儲けるだけのために、
お花の品質に目をつぶるようなことはしませんでした。
もともと、質のいいお花を安く売りたいという強い思いで始めたお店です。
十分な品質の花をそろえ、掛け率は他のお店に比べて低く抑えました。
花の栽培が盛んな実家の近所の農家に頼んで、
新鮮なお花を、直接お値打ちに仕入れられるようにお願いしました。
花市場に行っても、なるべく地元生産者が持ち込んだのものを選びました。
地元生産者から買えない種類の花は、他産地でも生産者の名前と
品質が判っているものだけを、なるべく仕入れるようにしました。
"産地直送の新鮮なお花を、お値打ち価格で売るお店"
そんなある日、地元情報誌の取材を受けました。
お店の特徴を聞かれ、私の口から出た一言です。
まさにこの一言が、ターニングポイントとなりました。
ほどなく、地元テレビ局の人気情報番組から取材の依頼。
アレンジが素敵でお値打ちなお店として、テレビで放映されるやいなや、
店の1台しかない電話が鳴り止まず、客数も10倍に跳ね上がりました。
しばらくしてこの異常なフィーバーは収まったものの、
その一部は固定客となって、繰り返し来店されるようになりました。
そしてお客様からは、
近くに、こんないい店があるとは知りませんでした。
この予算で、こんなにボリュームのある花束ができるとは思いませんでした。
他のお店でもお花を買うけど、やっぱりお宅のお花が一番長持ちするわ。
お宅のお花をプレゼントしたら、すごく喜ばれました。
知り合いに、いつもお宅のお店を紹介しているんですよ。
といった、たくさんの喜びの声が寄せられました。
"もしも、これから花屋を始めたいと言う人に出会ったら。。。"
私はきっとこんなアドバイスをすることでしょう。
花の仕入れは、自分で直接市場に出向き、自分の目で品質を確認すること。
価格を抑えてでも、商品の回転率を良くして、品質が落ちないようにすること。
この2つが、店を続けることができた要因であったことを。
最後まで読んでいただいて、とても嬉しいです。
ありがとうございました。
(2004.07.31)
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